祖父
父親方のおじいちゃんの話。
俺はおじいちゃんが大好きだった。
くそ頑固で昔の偏った考え方してて、
耳が遠くていつもおばあちゃんと喧嘩してて。
父親とその兄と弟、妹の4兄妹も厄介者扱い。
俺にだけは優しくて、小さい頃から始めたテニスもおじいちゃんの影響だった。
母親とは仲が悪かったらしいけど、
母親が入院してる時、両親の代わりに幼稚園の迎えに来てくれたのがおじいちゃんだった。
祖父母の家はおじいちゃんが専業主夫、
おばあちゃんが保険会社で働くという形だった。
おじいちゃんは元々軍隊で働いててその仕事ぶりが上官に評価される事もあったらしく、軍を辞めてからは魚屋や八百屋をやっていて、バリバリ仕事が出来る人だったらしい。
なんでそれが主夫になったのかは分からないけど、たまに遊びに行くと物凄い量と数のご飯を出してくるのが恒例だった。
俺はその味が凄く好きだった。
唯一1回だけ梅干しカレーは不味かったけど。
何か事がある度、葉書一枚いっぱいの長文の手紙を送ってくる。
オチのない、まだ話の途中、みたいな終わり方する手紙。
詩を書くのが好きで、新聞に定期的に載る事もあり、本を出版した事もあった。
今思えば、俺も作詞するの好きなんだよね。
これは良くない話だけど、おじいちゃんが車で事故して、裁判所の人に呼ばれた事があった。
結論相手は当たり屋だったんだけど、事故は事故として、反省文みたいなのを提出する必要があって、耳が遠いから父親が付き添ったらしいんだけど。
そこで、裁判所の人から「事故を起こしたらどうしますか?」と問われて、
「警察がいないか確かめた後、逃げます!!」と答えたらしい。
「いやそうじゃなくて、事故を起こしてしまったら何か必要な事がありますよね?」と聞かれて、やっと「警察と救急車です!」と答えたおじいちゃん。
もう、免許没収だよ。
家の近くの銀行で自損事故をして、本格的に免許返上となった時も、自分の住んでる警察署長宛に手紙を書いたらしい。
「〇〇警察署長殿、私は娘の為にお金を引き出しに行こうと銀行に行っただけで、何も悪い事はしておりません!ので、免許を返して下さい!」
いや、ほんと面白い事するよ。
おじいちゃんがそろそろボケてきて、親戚も心配してきた頃、介護福祉士持ってるし俺がおじいちゃん家に一緒に住もうとした事があった。
あんなに泊まってけ泊まってけ、一緒に住めばいいのにと言ってたおじいちゃんがいざ住もうとすると猛反対してきた。
説得して一度は了承したものの結局、
「本当に一緒に住んだらおじいちゃんは嫌われてしまうから」という理由で同居は諦め、近くの団地に住む事にした。
自分の駄目なとこ自覚あるのかい。
おじいちゃんが亡くなってから、この人は凄いなと思う事があった。
あんなに日常茶飯事で喧嘩してたおばあちゃんが、最後のお別れで、
「ごめんね。辛い思いさせて。父ちゃん、ごめんね。」と泣いていた。
手本というか、究極の愛というか、
最期にはバシッと見せつけてくれるなと思った。
最後に、祖父母の馴れ初め。
おばあちゃんは昔自営で本屋で働いてたらしく、そこにおじいちゃんが客として来て、ハンカチか何か落としたらしい。
昔は落とし物すると新聞に書かれるらしく、そこで新聞を見て落とし物を取りに行ったおじいちゃんがおばあちゃんと再会して、交際スタート。
おじいちゃんは当時他に3人気になってる女性がいて、会う度お金を使っていたけど、
中でもおばあちゃんだけは「私はビフテキなんていいです。ラーメン1杯で十分です」と言う人で、おじいちゃんはそこに惹かれたらしい。
あんなに毛嫌いしていたおばあちゃんとの馴れ初めを、おじいちゃん本人が話してくれた事は嬉しかった。「君もそういう人と一緒になりなさい」とも言っていた。
あともう少し早く結婚していれば、おじいちゃんにひ孫を見せられた。なんて思うけど、
でも変に喧嘩売りそうだから別にこれでよかったか。とも思う。
人はいつか死ぬ。
必ずいつかその時が来る。
なんだか最近そのスパンが短く、回数も増えてきた。
その時が来る前に、過ごせる時間は大切にしていく。